京の今年の桜の開花予想は3月31日らしおす。もっともこの桜ちゅうのは「染井吉野・ソメイヨシノ」のことどして、里桜、山桜なんかはもうちょっと後、牡丹桜は4月中旬以降ちゅうことになります。
うちはこの染井吉野はあんまし好きなことおへん。これは明治初期、東京の染井村の植木屋はんが大島桜と江戸彼岸桜とを交配さしてるときに偶然うまれた雑種らしおす。雑種のせいか育てやすく繁殖力も旺盛で、花も葉が出るまえに咲きますさかい、みた目が派手どす。そんなことであっちゅう間に全国に拡がったんやそうどす。
それまでの桜ていうたら、たいがい八重桜が主体やったらしおす。せやから、遠山の金さんの桜吹雪は一重ではおかしいんとちゃうやろか?太閤はんが醍醐で大茶会しはったときも、きっと八重桜を観てはったんやて思います。
京都市もご他聞にもれず、せっせと染井吉野を植えたはりますけど、京の桜ちゅうたらやっぱり「紅枝垂れ・ベニシダレ」白川あたりには少ぉし植わってますけど...あと、「細雪」の舞台となった、平安神宮・神苑のもあでやかどす。風にそよぐ枝垂れに、あでやかな花が揺れるとこなんかよろしおすなぁ。舞妓ちゃんの背景にはぴったしどす。
けど、うちの一番好きなんは山桜どす。緑々した山道でふと目にした紅みを帯びた葉にかくれた白い花には、思わずはっとさせられますえ。けど、これは町中へ植えても似合わへんて思います。名前通りに、山の中でひそと咲いてるのんが風情があってよろしおす。
さて、皆はんのお好みの桜はどんなんどっしゃろか?
よう耳にする京の悪口に「一見さんおことわり」ちゅうのがおます。今でも、京の花街では当然のしきたりとしてまかり通ってます。
他所から来たお方には、これがなんや差別されてるようにとられるんどすが、決して差別してるわけやおへんのどす。 初めて会うたお客さんは、好みも性格もまったくわからしまへん。 せやからどないなもてなしをしたらええのんかわからしまへんのどす。 結果、「なんやつまらん店や」て思われるのはプライドが許しまへん。 それやったら、最初からお断りした方がええちゅうことどすねん。
それと初めてのお方やと、どないなお方かもわかりまへんし、万が一大事なお馴染さんにご迷惑かけたら困ります。 京のお店では(特にサービス業)お馴染さんをことのほか大事にします。 京の商売の原点ちゅうのは、細く長く続けていくことなんどす。 決して一過性のもんは好みまへん。 お客の方もいったんお店が決まると、決して他所に浮気などせんと「○○はどこそこのん」と何代もわたっておつきあいさして貰います。
不特定多数のお客さんにいかに多く販売するかが商売の原則かも知れまへん。 マニュアル通りのサービスしか受けられんお店で買物したり、食事したりするのが平気なお方やとそれでもよろしおすけど、うちはやっぱり、お店の人と気が通じ合うたとこの方がよろしおす。 それに馴染みになって年が経つにつれ、うちの好みも分かってくれてはるし、嫌いなもんは決して勧めはらしまへんし、好きなもんがあったら、ちゃんと声かけてくれはります。
店によったら、行くと「お帰りやす」、帰るとき「いっといやす」て云うて、まるで我が家のようなもてなししてくれはります。ほな、お馴染みはんは最初どないして店に来たんや?て云われると、確かに最初は誰かに紹介して貰わななりまへん。 けどまめに探せばどこぞに知りあいがいやはるて思いまっせ。