京都祇園観光案内(テスト運用)

2002年02月28日

お店出し

つい最近、祗園町に新しい舞妓ちゃんが店出ししはりました。柴田はんとこの妓で名前は豆千花・まめちか、引いたお姉さんは芳豆はんのいもとの豆弘はんどす。年々少のうなってきた舞妓ちゃん、一人でも増えたんは喜ばしいことどすなぁ。

さて、今回はお店出しのお話どす。皆さんも「お店出し」ちゅう意味は既にご存じやと思いますけど、知らんお方のために云いますと、舞妓ちゃんのデビューちゅうことなんどす。半年から一年にわたる辛い仕込みさんの生活に耐えて、ようやっとおっしょはんから許しが出たら、次は引いて貰うお姉さん探しと妓名の番どす。これはおかんの仕事どすけど。まぁ大体、おかんの筋とかで決まってしまうようどすけど。妓名の方はと云うと、引いて貰うお姉さんの名の一文字または二文字を貰って、あと晴明はんとかで見て貰うて決まるんどす。

舞妓ちゃんになる前に舞の試験がある花街もおす。甲部でも昔はあったんどすけど、現在試験は無うなってしまいました。お家元の判断一つにかかってるらしおす。お家元からOKが出たら、次に見習いとして「見習いのお茶屋」はんに大体1カ月位前から通うて、そこで舞妓としての実技研修があんのどす。時間は夕方6時から10時まで、お座敷に上がってお姉さん方のお手伝いやらお酒を運んだりといわば雑用係どす。もちろんお花代は付かしまへん。この見習いのお茶屋はんも、これから先重要なお茶屋はんになんのどす。

この期間中の舞妓ちゃんは見たらすぐにわかるんどす、ちゅうのも本来は裾まで届く舞妓のシンボルちゅう「だらりの帯」が、この期間中は長さも半分位の「半だら」て云われる帯を締めるんどす。皆はんもこれから花街を歩いてて、半だらの妓をもし見かけたら「見習いちゃん頑張って」と心の中で応援したげとぉくれやすか。

見習い期間も終わると、これまた以前から屋形のおかんが晴明はんでみて貰うたええ日にお店出しがあんのどす。大勢の人から送られたお日柄(おめでたい絵柄が描かれたポスター大の祝紙)がはりめぐらされた屋形の部屋では、朝早うから支度におおわらわどす。おかんを始め、姉芸・舞妓、親戚筋等が集まってにぎやかなことどす。まず、先輩舞・芸妓はんに化粧をしてもらいます。今日だけはお姉さんにしてもらうんどすけど、明日からは自分でせんなりまへん。最初に鬢付け油を手でのばして顔全体に塗っていくのんどすけど、慣れるまではなかなか均一に塗れしまへん。せやから出たての舞妓ちゃん、たまに白粉がまだらになってる妓がいたはります。

化粧がすむと、男衆さんが着物を着付けてくれはります。こちらは慣れた手つきであっちゅう間に出来上がり、正に職人芸どす。鏡の中には、真新しい舞妓ちゃんがいたはります。「これがうちやろか」自分でもびっくりするほどどす。今朝結い上げた髷・わげには、今日から三日間だけつける鼈甲ででけた「だいかん」て呼ばれる大きめの簪、「びらかん」てよばれる銀ででけた細い短冊状のもんがぎょうさんついた簪も、この日は両側についてます。襟足はもちろん三本襟足、黒紋付と合わせるとほんまにきりっと引き締まって見えるんどす。髷の後ろには「見送り」て呼ばれる金と銀の紙ででけた九尾のきつねのしっぽみたいなんが1対飾られとります。

用意が整うた頃に男衆さん・おとこしさんがやって来ます。そして座敷で固めの盃ごとが始まります。結婚式のときの三三九度みたいなもんどす、違うのんは相手が男やのうて姉芸妓はんちゅうとこどす。引いて貰うた姉芸妓、そのまた姉芸妓、姉舞妓らが並ぶ向いに座って、「千鳥」て云われるスタイルで盃を交すんどす。この盃事には、屋形のおかんは筋が違うたら列席はしやはらしまへん、引いて貰うお姉さんの一族だけが列席出来んのどす。このお盃ごとが済めば、ようやっと一族の仲間入りどす。

その後、男衆さんについて貰って祗園町のお茶屋はんに挨拶廻りをすんのどす。花街によっては姉芸妓はんが連れて行くところもおすけど、甲部はんではお姉さんは付いて行かはらしまへん。おかんの切り火を背に、ゆっくりと左足から玄関を出ていくのんどす。表にはカメラを持ったギャラリーが大勢待ちかまえてます。その数に驚きながら、「自分もカメラ向けられるようになったんや」と改めて舞妓になったことに気がつくんやそうどす。

「○×はんのお店出しです」男衆さんの挨拶に続いて「○×どす、よろしゅうおたのもうします、お母はん」何十軒ものお茶屋はんに挨拶をして廻って、もう足が棒のようになってしまいます。おまけに衣装も全部合わせると軽く10キロは越しますさかいに、どんだけしんどいかは想像できまっしゃろ。けど、屋形へ帰って来てもそないゆっくりもしてられましまへん。夕方からはお座敷が待っとります、ぎょうさんのお座敷からお花がかかっとりますさかいに三日間の正装のときは一つのお座敷に30分もいられしまへん、それこそ蝶のように次々とお茶屋はんを廻って、お客はんからもぎょうさんお祝いの言葉やご祝儀頂きました。そう、今夜から祗園の新しい舞妓ちゃんになったんどす。けど、舞妓ちゃんがどんだけ大変なお仕事か、て気がつくのんはもうちょっと先のことどっしゃろねぇ。

blank_space
投稿者 八代目 : 19:44 | コメント (0) | トラックバック

2002年02月13日

義姉妹

さて、今日は義姉妹のお話どす。先日放映された「スーパーテレビ」の照古満はんの店出しで、固めの盃事が映ってたんを観はりましたやろか?照古満はんの向いに座ったはった照豊はんが照古満ちゃんの「お姉さん」どす。その横には照豊はんのお姉さんの照千代はんが並んだはりました。

皆はんもご存知の通り、舞妓ちゃんに憧れて祗園へやって来て、どこぞの置屋はんでおちょぼはん(仕込みさん)をおよそ一年ほど続けてから、いよいよ舞妓ちゃんとして店出し(デビュー)するようになったとき、必ず芸妓はんのお姉さんに(ごく稀に舞妓ちゃんでも)引いて貰わななりまへん。この時の人選は、屋形のお母はんの人脈とかで決まってしまいますさかい、舞妓ちゃんの意志は全く反映されへんのどす。つまり、自分から引いて貰うお姉さんを選ぶことは出けしまへんのどす。ごく稀に自分からの逆指名ちゅうこともあったらしおすけど、あくまで例外どす。

めでたく、引いて貰うお姉さんが決まったら店出しの当日、お姉さん・お姉さんのお姉さん(引いてもらう舞妓ちゃんからみて大っきいお姉さん)・先に引かれた姉芸・舞妓等親戚筋が集まって、義姉妹の固めの盃事が行われんのどす。是から先は、どちらかが他界するか妓籍を抜けるかするまではず〜っと続く関係なんどす。ある意味では、ほんまの姉妹よりずっと深い関係と云えるかもしれまへん。実はこの姉妹縁組み、引かれる舞妓ちゃんよか引くお姉さんの方が精神的にも肉体的にもずっと大変なんどす。

ちゅうのも、妹がしたことについての責任はすべて姉にまわって来んのどす。お師匠はんに舞が下手やて叱られたときは一緒に付いてあやまりに行かんなりまへんし、「おとめ」ちゅうて稽古場に残されたときは、飛んで迎えに行かんなりまへん。何らかの理由でお座敷に穴空けたらそのお茶屋はんのお母はんに謝りに行かんなりまへん。出立ての頃は、贔屓のお客さんなどおへんさかい、お姉さんが連れまわって「今度出たうちのいもとどす、よろしゅうお頼申します」ちゅうてお客さんに紹介してまわります。勿論、お客さんに粗相でもしたときは、一緒に謝らんならんのは当然どす。「うちのいもとがえらい事しまして、すんまへんどした」て。

今でこそそういったことは少のうなりましたが、毎月の簪を揃えてやったり、「東京行き」ちゅうて東京見物にも連れて行かんなりまへん。芝居見物にも、ご飯食べにも連れて行かはります。悩み事があったら相談に乗ってやらんなりまへんし、舞や鳴り物のアドバイスもしたげます。

どうどす、こんな事やったら妹なんか引かん方がましや、て思わはりました? 実際、屋形のお母はんから「○×はん、今度うちの子、引いて貰えへんやろか?」て云われたら、大概はしり込みしはります。けど、結局お母はんとか、自分のお姉さんとかの筋でどないも断れんようになって来んのどす。それに、よう考えたら、自分も昔、お姉さんに引いて貰うて舞妓ちゃんになったんどすさかいに、そのお礼返しやと思うたらしょうおへん。そうして順繰りに関係が続いて行くのんどす。

ほな、舞妓ちゃんは楽でええやないか、て思わはるお方もおすやろけど、舞妓ちゃんにはまた、せんならんことがあんのどす。今でこそ、見かけんようになりましたけど昔は「鏡台磨き」ちゅうて、毎朝自分のお姉さんのとこまで行って、お姉さんの鏡台まわりの掃除と水の用意をせんなりまへん。それに今の若い子には辛いことどっしゃろけど、お姉さんの云うことには絶対服従なんどす。お姉さんが「あきまへん」ちゅうたらどんなことがあってもあかんのどす。一緒にご飯食べに呼ばれても、お姉さんが箸をつけるまでは、なんぼお客さんが勧めても決して口にすることは出けしまへん。(ある意味で体育会系、もしくは軍隊)

こない書くと、なんやいじめの世界やないか、て思わはるかも知れまへん。けど、お姉さんにとっていもとは決して憎い筈がおへん(て、うちは信じとります)。他所の妓よか、自分のいもとが可愛いのんは当然どす。よその妓より自分のいもとが舞が上手やったらそら嬉しおす。お師匠はんから誉められたりしたら、我がこと以上の喜びどす。せやから、をどりが近づいたら気が気やおへん、あんじょう舞えるやろか、失敗せえへんやろかと、まるで参観日の母親みたいに稽古を見つめたはります。いもともそんなお姉さんの気持ちが通じてか、お姉さんの名前に瑕つけんように、お姉さんに恥かかさんようにと一生懸命稽古に励まはんのどす。どうどす、なかなかええもんどっしゃろ、義理の姉妹も。

blank_space
投稿者 八代目 : 19:43 | コメント (0) | トラックバック
記事一覧
blank_space
リンク
blank_space