最近、京都新聞社はんから一冊の本が出版されたんどす。「京の女将さん」ちゅう本どす。これは京都新聞の夕刊に連載されてたんをまとめたもんで、101人の女将はんが紹介されとります。興味あるお方は是非買うとぉくれやす。
さて、今日はお茶屋はんのおかんのお話どす。女将・お母はん・おかん、呼び方はそれぞれどすけど、文字通りにそのお店の顔どす。おかんの顔が溌剌としてるお店はやっぱしようはやっとりますなぁ。お客はんも店をたずねるときの楽しみの一つが、おかんの顔を見に行くこと、なんやおへんやろか?
「なんや、おかんいてへんの、どこ行ったん?」
「すんまへんなぁ、ちょっと遠方で不祝儀がおして」
「そうかぁ、ほな今日はやめとくわ」
「そんなこと云わんと寄っとぉくれやすな、留守見舞に」
舞妓ちゃんや芸妓はんに囲まれてわいわいやんのもそら楽しおすけど、何十年ちゅう間花街に生きてきはったおかんらと話するのんが、うちはもっと楽しおす。何よりもうちらの知らんことを教えてくれはりますさかいに。中には他所では喋れんような内容のお話もおすけど(笑)
え、おかんは普段は何してるんや?て、どすかおかんの仕事なんどすけど、そらものすごう仰山あんのどす。屋形も一緒にやってはるとこやと、そら殆ど年中無休状態どす。家にいてる妓の着物の段取り、お客はんからの予約、経理の事も人ばっかりに任せとかれしまへんし、廻って来た芸・舞妓はんらの花代を見てお客はんへの請求書をこさえんなりまへん。営業時間はお客はんのお相手、全ての席に挨拶して廻って、帰らはるときにはお見送り。夜も舞妓ちゃんらが皆帰って来るまでは心配で寝られしまへん。夜寝るのんが遅うなっても、次の朝舞妓ちゃんが出張やて云うたらその前に起きて準備してあげんなりまへんし。
日曜のお休みも、お客さんのお相手でゴルフや麻雀に誘われたら断れしまへん。月2回の(※1)公休日でさえも、自分とこの芸・舞妓ちゃんらが気張ってたら自分だけ休む訳にもいかしまへん、ちゅうて気張ったはります。その間に祝儀・不祝儀で出かけんなりまへんし、神さん詣りもお墓参りもかかせしまへん。ほんま休む暇も無う動き廻ったはります。おまけに都をどりの期間中1週間前からは都をどりの切符を手配せんなりまへん。をどりが始まると入口でお客はんを待って、お茶席ではお正客の席を確保して、その後席まで案内せなあかんさかいに余計に忙しい毎日がひと月続くんどす。今ごろは、おかん連中みんなくたびれた顔したはります。ほんまご苦労さんどした。
「おかん、娘が劇団四季のオペラ座の怪人、観に行きたい云うてんのやけど5月まで満席なんやて。どこぞで切符取れへんやろか?」
「ちょっと待っとぉくれやっしゃ、たんねてみますわ」
10分後には「取れました」ちゅうてかかって来ます。おかん連中、そら顔が広おすさかいに、大抵のことは頼んだらやってくれはります。(どこぞの人みたく、献金はいらしまへん。まぁ気持ちがあったら、(※2)ごはん食べでも呼んだげたらよろしおす。)頼んだら病院も待たんと診察受けられますし、芝居の切符なんかはお手のもんどす。
どこぞですでにでき上がって、遅がけに入ってきていきなり
「おかん、○×の餃子云うてぇな、皆んなも一緒に食べよか」
「わしは△□のカレーうどんがええわ、いつもの(※3)台抜きやで。その前に焼酎のお湯割作ってぇ」
「もうええ按配どっさかいに、止めとぉきやすな」
「ちょっと○×ちゃん、熱いお茶入れたげてんか」
こないな迷惑な酔っ払いにも嫌な顔せんと相手してくれはりますし、身体の心配までしてくれはります。そんときは当たり前のように振る舞うとりますけど、翌朝になったら、ほんま世話になったて感謝しとりますえ。身体を大事にいつまでも頑張っとぉくれやっしゃ。
※1 公休日 祗園甲部では毎月、第二・四日曜が公休日で舞妓ちゃんらのお休みの日ぃなんどす。
※2 ご飯食べ 芸・舞妓ちゃん等をお花代つけて、食事に連れて行ってあげることどす。おかんは勿論花代はいらしまへんけど(笑)
※3 台抜き おうどんの入ってへん「おうどん」のことどす。カレーうどんの台抜きちゅうたら、カレーつゆと 肉・野菜だけちゅうことになんのどす。お うどんの量が半分のんは台半・だいはんて云うのんどす。祗園町のうどん屋はんでは通じまっさかい、いっぺん試してみとぉくれやす。