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今日は妓名のお話どす。皆はんはご自分の名前、気に入ってはりますやろか?名前の選択権はもちろん自分にはおへん、親が決めたもんどすさかい。おんなじように舞妓ちゃんの名前も本人に選択権はあらへんのどす。お店出しのときに、屋形のおかんが、引いて貰う姉芸妓はんの一文字または二文字を貰うて、後は晴明はんとこで観て貰うてつけはんのどす。舞妓ちゃんが「うち、こんなんいややわ」て思うてもどないもならへんのどす。屋形によってはある程度は本人の希望を聞いてくれるとこもあるらしおすけど、大体はお仕着せなんどす。

「○×ちゃん、あんたの名前かいらしてええなぁ、うちなんかなんや年寄みたいでかなんわ」
「そんなことあらへんて、△□ちゃんの名前やったら(注1)おっきな芸妓はんになったかておかしないけど、うちの名前でおっきな芸妓はんになったら恥ずかしいわ」
「あんたらなんえ、せっかくお母はんが考えてつけてくれはった名前に、文句云うてどないしますねん」
気がついたらいつの間にか、そばにお姉さんが立っとりました。

芸妓はん、舞妓ちゃんにとってこの妓名は、花街にいる限り本名以上に大切なもんになんのどす。花街の中だけやのうて旅先でもどこでも、お互いを呼ぶときに決して本名では呼ばしまへん、必ず妓名で呼び合うのんどす。(注2)引いて何十年も経ったおかんらも、今でもお互いを本名やのうて妓名で呼んだはります。せやからどこ行ってもすぐにばれてしまうんどす、花街の人やちゅうのんが。もっとも喋らんでも着物の着こなしとかですぐに分かりますけど。

この妓名、おんなじ花街では現役の方とおんなじ名前は使うことが出来しまへんのどす。そらおんなじ花街でおんなじ妓名の妓がいたらややこしおすわなぁ。花街が違うたらかましまへん、けど使わして貰うときには一応挨拶を通しとかんとあきまへんやろねぇ。妓籍を引かはったときには、頼みに行って向こうが「あんたはんとこの子やったらかましまへん、どうぞ使うとぉくれやす」ちゅうたら使うことは出来るんどす。そのかわり、その妓にはプレッシャーは余計にかかりますわなぁ、引いて貰うたお姉さんに加えて名前貰うたお方の分が増えるんどっさかいに。

芸・舞妓はんらが手紙などを出すとき、宛名は(注3)自前のお姉さんに出すときやったら「本姓 妓名 様御姉上様」、屋形にいてはる相手には「屋形名 妓名 様御姉上様」てなんのどす。同期か下のもんに出す時は、御姉上様はいらしまへん。皆はん書道を習うたはりますさかいに、もちろん筆で書かはります。特に上のお姉さんとか屋形のお母さんに出すときは、間違うてもボールペンとか使うたらあきまへんえ。

芸・舞妓はんら、自分の持ち物には大抵のものに妓名が入っとります。ハンカチ、傘、携帯のストラップにまで、まるで幼稚園の子みたいどすけど、これは失さんようにちゅう意味やのうて自己主張といった意味合いの方が強おす。初めてのお客はんに呼ばれて席に着いて、そのお客はんのボトルを見つけると、ぱっと目を走らせて誰と誰の千社札が貼ったぁるのんかを調べます。
「うちのんも貼らしてもろてよろしおすか?」
「ああ、かまへんで。その○×はんの上にべたっと貼っといたらええやんか」
「ひやぁ、そんなおそろしこと、見つかったら○×さん姉さんにしばかれますぅ」
「へぇ、あの姉さんそんな恐いんかいな、見たとこやさしそうな顔してるけど」
「いえ、そんなことぉ・・・おへんけどぉ・・・」
ちゅうて、おもむろに自分の千社札をそれなりのポジションに(上のお姉さんよか高いとこには貼れしまへんし)貼っていかはります。犬のマーキングみたいなもんどっしゃろか?

因にこの千社札、舞妓ちゃんから貰うたときは財布の中に貼っといたらええのんどすて「お金が舞いこむ」ちゅうて。そういうたらうちの財布には芸妓はんのしか貼ってへんさかいにお金が入って来ぃしまへんのやろか(笑)

(注1)おっきな芸妓はん  年長のベテランの芸妓はんのことどす。身体が大きいちゅう意味やおへん
(注2)引く        芸妓を辞めることを云うのんどす。ちゃんと「引祝い」を配って辞めんとあきまへん。二度と花街へは戻らないときには「白蒸し」を、もしかしたら戻って来るかも知れんときには赤飯を混ぜたんを配るんやそうどす。
(注3)自前        年(年季奉公)も明けて屋形から出て独立することどす。


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このコンテンツは祇園藤村屋が過去に発行したメルマガ祇園藤村屋電子瓦版の記事を再構成したものです